第11回 音を聞き取る能力

今回のテーマは、<音を聞き取る能力>についてです。

配信年月:2017年8月

第10回の記事では、発音、つまり音を発する能力の発達についてお伝えしました。順番が逆になってしまいましたが、ことばとしての音を発するためには、他の人が発した音を聞き取る能力が育つことが必要です。今回はこのテーマを取り上げ、ことばの発達の一面をみていきましょう。

1.<生まれて間もない頃の音の聞こえ方>

大人になって外国語を学習しようとした時、ある音と別の音を聞き分けられずに困ったことはないでしょうか。よくあるのは、英語のLとRの聞き分けが難しい、などかと思います。どちらも日本語だけの環境で育った人の耳には「ら行」の音に聞こえると思いますが、このLとRの区別、生まれてから1か月〜8か月頃までの赤ちゃんならば、どの国(どのことばが話される場所)で育てられていても、区別ができることが報告されています。つまり、日本の赤ちゃんでも、生まれて8か月頃まではLとRの区別ができるのです。LとRに限らず、世界中で話されているどの言語にも、ある音と別の音を区別する境界線がある訳ですが、それらの区別をほぼ全てできるのが、生まれて8か月頃まで、つまり話し始める前までの赤ちゃんなのです!

2. <言語にあわせた音の聞こえ方の発達>

大人にはない(ことが多い)、その赤ちゃんの素晴らしい能力は、その後どうなるのでしょうか。8か月を過ぎた頃から、生まれて初めことばを発するようになる1歳頃までの間に、その能力の一部は失われていきます。「失われる」というと、おとろえてしまうイメージですが、実際は、赤ちゃんがこれから生活していく世界で必要な能力を残し(強め)、必要のない能力は捨てるという整理をしていることになります。日本語が話される環境で生活していくのならば、「ラッパ」という音を聞くときに、「Raッパ」と聞こえるか「Laッパ」と聞こえるかは重要ではありません。むしろ、そんな聞き分けができることは「ムダ」であり、もっと頭での処理をシンプルにしようと、自然に頭の中(神経)が整理されるため、日本語を学んでいく環境にある赤ちゃんは、それらの区別ができなくなっていくのです。

このようなことをお伝えすると、「子どもが英語を話せるようにしたい」などと思っているお母さんは、まずい!と思われるかもしれませんが、ご安心ください。一旦失われても、その後の学習によって音の聞き分けを身につけることはある程度可能と言われています。そして、今はまず、母語といわれる最初に学習することばを育てることの方が大切です。音(例えば、「り」と「ん」と「ご」からできている「りんご」)が、「赤くて、固くて、触るとツルツルしていて、お母さんがむいてくれて、食べるとおいしくって、絵本に出てくる」ものであるというイメージとしっかり結びつくことが、ことばを育てる上での大事な基礎となります。

なお、現在は国際化が進み、お父さんとお母さん、ひいてはおじいちゃん、おばあちゃんの話すことばがそれぞれ違ったりする場合があるかと思います。そのような場合は、まずはそれぞれの方が自分の母語(一番最初に覚えた、あるいは一番得意な言語)で、お子さんに話しかけるようにしていただくとよいと思います。

3. 吃音のまめ知識(左利き矯正は吃音の原因?)

先月は「左利きを矯正したら吃音になる」という説について、間違っている(根拠がない)ことをお伝えしました。左利き矯正のことが言われていたのは1930年代のことです。その後、1940年代頃から、今度は「親が子どもの話し方を気にするから吃音になる」という、親の見方が原因という説が出てきました。これによって「できるだけ気にしないように」「そっとしておく」方がよいという対応も勧められてきたのですが、現在はこれも否定されています。吃音の原因は、親の育て方ではありません。

4. 参考図書

1) ジャック・ライアルズ著 今富摂子・荒井隆行・菅原勉監訳.音声知覚の基礎. 2003.海文堂.
2) 菊池良和.子どもの吃音ママ応援ブック.2016.学苑社.